モンクと桃の木【再掲】

人気のあったあの記事の再掲企画【第二弾】


盟神探湯 ーコラムー


 昔々、アラミゴの大昔、強健王マンフレッドの御代の事でございます。アラミゴの都から遠く離れた田舎の小屋に、寡婦のララフェル族の女性が、小さい娘のモンクを相手に、寂しく暮らしていました。かけがえの無い一人娘ですし、それに、随分呑気で、ずぼらで、怠け者でしたが、本当は気だての優しい子でしたから、母親は、空けても暮れても、モンク、モンクと言って、それこそ目の中に入れても痛くないくらいに可愛がって、何にも仕事はさせず、ただ遊ばせておきました。

 こんな風にのらくら娘を抱えた上に、この寡婦の人は、どういうことか運が悪くて、年々物が足たりなくなるばかり。ある年の冬には、もう手周りの道具や衣類まで売って手に入れたお金も、手内職なんかをして僅かばかり稼ぎ貯めたお金も、綺麗に使ってしまって、とうとう家の中でどうにかお金になる物は、たった一匹残った牝バッファローだけになってしまいました。

 そこで、ある日の朝、母親はモンクを呼んで、

「本当に、お母さんは、自分の身体を半分持って行かれる程辛いけれど、いよいよ、あの牝バッファローを、手ばなさなければならない事になったのだよ。お前、ご苦労だけれど、ポルタ・プレトリアまでバッファローを連れて行って、良い人を見つけて、なるたけ高く売って来ておくれな。」と言いました。

 そこでモンクは、バッファローを引っ張って出かけました。

 しばらく歩いて行くと、向こうから、肉屋の親方がやって来ました。

「これこれ嬢ちゃん、牝バッファローなんか引っ張って、何処へ行くのだい。」と、親方は声をかけました。

「売りに行くのよ!」と、モンクは元気に答えました。

「ふうん。」と親方は言いながら、片手に持った袋を振ってみせました。ガサガサ音が鳴るのに気がついて、モンクが袋の中を覗いてみますと、綺麗な色をした桃がチラチラ見えました。

「わぁ、綺麗な桃ね。」 そうモンクは思って、何だか無暗にその桃が欲しくなりました。その様子に肉屋の親方はすぐに気づいてしまいました。そして、この少したりない子供を上手く引っかけてやろうと思って、わざと袋の口を開けて見せて、

「嬢ちゃん、これが欲しいのだろう。」と言いました。

 モンクはそう言われてニコニコ笑顔になると、親方は勿体らしく首を振って、「いけないいけない、こりゃあ不思議な魔法の桃さ。さすがにタダではあげられない。どうだ、その牝バッファローと、取り換えっこしようかね。」と言いました。

 モンクは、肉屋の親方の言いなりに、牝バッファローと魔法の桃を取り換えっこしました。そしてお互い、これはとんだ儲け物をしたと思って、ホクホクしながら別れました。

 モンクは魔法の桃を抱えて、家まで飛んで帰りました。家へ入るとすぐにモンクは、

「お母さん、今日は本当に、上手く行ったわよ!」と、いきなりそう言って、大得意で、バッファローと桃の取り換えっこした話をしました。ところが母親は、それを聞いて喜ぶどころか、あべこべに酷く叱りました。

「まあ、何という馬鹿な事をしてくれたのだね。本当に呆れてしまう。こんなつまらない桃なんかにつられて、大事な牝バッファロー1匹、元も子も無くしてしまうなんて。ラールガーさま、この馬鹿な子をどうしましょう。」

 母親はぷんぷん怒って、忌々しそうに、窓の外へ、桃を投げ捨ててしまいました。そして、つくづく情けなさそうに、シクンシクン、泣きだしました。

 きっと喜んで貰えると思っていたのに、あべこべに、生まれて初めてお母さんのこんなに怒った顔を見たので、モンクはびっくりして悲しくなりました。そして、何にも食べるものが無いので、お腹が空いたまま、その晩は早くからコロンと寝てしまいました。

 その明くる朝、モンクは目を覚まして、ふと窓の外を見ました。するとどうでしょう、昨日庭に投げ捨てた桃の種子から、芽が生えています。モンクはその芽に水をあげ、大切に育てました。

 そして3年が経ちました。

 庭に生えた大きな桃の木には、たくさんの桃が生りました。めでたしめでたし。



エオルゼア・トリビューン