人気のあったあの記事の再掲企画【第二弾】
盟神探湯 ーコラムー
ひどく暑い日でした。真夏の太陽がさんさんと降り注ぐお昼時――紅蓮祭が行われている頃の昼でした。この暑さと眩しさの中、一人の哀れなララフェルの少女が道を歩いておりました。少女の名前はモンク。頭に何もかぶらず、手に何も武器は持っていません。家を出るときには武器を持っていました。ええ、確かに持っていたんです。でも、武器は何の役にも立ちませんでした。それはとても大きな剣で これまで少女のお母さんが使っていたものでした。たいそう大きな剣でした。かわいそうに、道を大急ぎで渡ったとき、少女はその剣をなくしてしまいました。二台のチョコボキャリッジが猛スピードで走ってきたからです。
大きな剣はどこにも見つかりませんでした。大きな剣は浮浪児が見つけ、走ってそれを持っていってしまったのです。その浮浪児は、いつか自分が大きくなったら暗黒騎士になれると思ったのです。 それで少女は武器を持たない素手のまま歩いていきました。両手は暑さのためとても赤く日焼けして、喉はカラカラに乾いておりました。少女は古い袋の中にたくさんの魔法の桃を入れ、手に1個持っていました。日がな一日、誰も少女から何も買いませんでした。わずか1ギルだって少女にあげる者はおりませんでした。
暑さと空腹でフラフラになりながら、ララフェルの少女は歩き回りました――まさに悲惨を絵に描いたようです。かわいそうなモンク!
サンサンと輝く灼熱の太陽が少女の朱色の髪を焦がしました。その髪は灼熱の太陽の熱で襟足付近から美しくカールしていきます。でも、もちろん、ララフェルの少女はそんなことなんか考えていません。どの窓からもアイスシャード送風機が見え、ロランベリーシェイブドアイスを作っている音が聞こえました。ご存知のように、今日は紅蓮祭です。そうです、少女はそのことを考えていたのです。
二つの家が街の一角をなしていました。そのうち片方が前にせり出しています。ララフェルの少女はせり出している方の家の軒先に寝転がって大の字なりました。日陰に入っていますが、ララフェルの少女はどんどん暑くなっていきました。けれど、家に帰るなんて冒険はできません。桃はまったく売れていないし、たったの1ギルも持って帰れないからです。家には誰もいません。唯一の肉親だった母親も1年前に他界しました。それに家だって暑いのです。風通しが悪く、天井は熱を遮ってくれません。
ララフェルの少女の小さな喉は暑さのためにカラカラになっておりました。ああ!手に持っている桃を口に入れれば、それがたった一個の桃でも、ララフェルの少女はほっとできるでしょう。ララフェルの少女は手に持っている桃を口元に運びました。 ≪カプッ!≫ 何という美味しさでしょう。何と瑞々しい。柔らかく甘くて、汁をすするとまるでジュースのようでした。素晴らしい魔法の桃です。小さなララフェルの少女には、まるで30%の確率で闘気が付与されているようでした。その闘気にはぴかぴかした気孔術があり、TPが300回復しました。その桃は、まわりに祝福を与えるような美味しさでした。いっぱいの喜びで満たすように、桃は喉を潤します。しかし、――魔法の桃は食べ終わり、闘気も消えうせました。 残ったのは、食べ残した種だけでした。
ララフェルの少女は袋からもう一個桃を取り出し口に運びました。 桃のかじり口からは甘く芳醇な香り、その香りが周囲に広がりました。周囲を歩いている人たちは、その甘く芳醇な香りによって与物理ダメージが5%上昇していました。ちょうどそのとき――桃を食べ終え、硬く、冷たく、じめじめした種だけが残りました。 ララフェルの少女はもう1個桃を食べました。すると、ララフェルの少女は最高に素敵な固定パーティに誘われてました。その固定パーティは、アーゼマの均衡をララフェルの少女に優先的にわたしてくれました。
いくつものバフがステータスの上で燃え、金色に輝くバハムートを追い詰めていきます。ララフェルの少女はトドメとばかりにファイナルへブンを、――そのとき、桃を食べ終えた。 ファイナルヘブンの光は高く高く上っていき、もう天国の星々のように見えました。そのうちの一つが流れ落ち、長い炎の尾となりました。
「いま、誰かがギミックをミスったんだわ!」とララフェルの少女は言いました。というのは、お母さん――少女を愛したことのあるたった一人の人、いまはもう亡きお母さん――がこんなことを言ったからです。 星が一つ、流れ落ちるとき、魂が一つ、ラールガーさまのところへと引き上げられるのよ、と。
桃をもう1個、口に運びました。すると再び口の中に甘さが広がり、その甘さの中に双豹のイヴォンが立っていました。 とても明るく光を放ち、とても厳しく、しかし愛にあふれた表情をしていました。
「双豹のイヴォン!」と小さなララフェルの少女は大きな声をあげました。 「お願い、わたしを連れてって! 桃を食べ終えたら、双豹のイヴォンも行ってしまう。 激しい闘気みたいに、 ぴかぴかした気孔術みたいに、 それから、あの素敵な固定パーティみたいに、 双豹のイヴォンも消えてしまう!」 少女は急いで、袋の中の桃をありったけ口に詰めました。 双豹のイヴォンに、しっかりそばにいてほしかったからです。桃の果肉は素晴らしい甘さを放ち、星芒祭のケーキよりも甘いほどです。 このときほど双豹のイヴォンが逞しく、大きく見えたことはありません。 双豹のイヴォンは、ララフェルの少女に全チャクラを解放しました。ララフェルの少女は、双豹のイヴォンの周囲に出た光る玉を必死に集めます。全ての玉を集めきった時、双豹のイヴォンはララフェルの少女に双豹蒼連撃を撃ち込みました。1発、2発、3発、4発、5発……双豹のイヴォンは「トドメの一撃ィィィィッ!!!!」と叫び、二人は輝く光と喜びに包まれて、高く、とても高く飛び、 やがて、もはや暑くもなく、空腹もなく、心配もないところへ――ラールガーさまの御許にいたのです。
けれど、あの街角には、午後の西日が照らす頃、かわいそうなララフェルの少女が横たわっていました。 薔薇のように全身を日焼けし、口もとには微笑みを浮かべ、お腹は桃でポンポコリンになり、石床に大の字に――その子は売り物の桃を入れた袋を持ち、体を汗まみれさせてそこに寝ておりました。 桃のうちのほとんどは食べられていました。 「喉を潤そうと思ったんだなあ」と人々は言いました。 ララフェルの少女がどんなに美しいものを見たのかを考える人は、 誰一人いませんでした。 ララフェルの少女が、双豹のイヴォンと一緒に素晴らしい所へ入っていったと想像する人は、 誰一人いなかったのです。
「むにゃむにゃ、もう食べられないよぉ……。」
エオルゼア・トリビューン
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